ラシュスとヴィオレ=ル=デュックの修復

鉛板葺きの屋根 © Benjamin Mouton

尖塔とトランセプトの南側ファサード © Benjamin Mouton

南バラ窓 © Benjamin Mouton

西側ファサードのゲート © Benjamin Mouton

中央玄関、タンパン、トリュモ、柱像 © Benjamin Mouton

王のギャラリーの彫像 © Benjamin Mouton

ラシュスとヴィオレ=ル=デュックの業績

ベンジャマン・ムートン (訳:河野俊行)

国が指示した大聖堂修復作業プログラムには、次の3項目が挙げられていた。

緊急修理

  • 用途に応じた石材の取り換え:建物の一般的な面には堅固な石、外部に露出した面 (テラス、コーニス、エンタブラチュア) には硬質な石、彫刻には肌理細かい石。
  • 屋根修理:鉛葺きの高屋根、及び低位置の石造テラス。
  • トランセプト (袖廊) 南翼のたわんだバラ窓と破風の復旧。
  • 外部及び内部の金属製タイロッドによるクワイヤの補強、トランセプト (袖廊) 南面ファサードの補強、身廊とクワイヤのフレームの補強。

修復

  • 中世のファサード修復:西正面3つのポルタイユ (玄関) の彫像と柱の修復、その中央ポルタイユ (玄関) のタンパン (玄関扉の頭上、梁とアーチに囲まれた部分) とトゥルモ (玄関扉の中柱) の修復、「王のギャラリー」の彫像の修復 (彫像の中にはラシュスとヴィオレ=ル=デュックに似せたものがある)。装飾が施された蝶番付き扉も修復し、完成する。
  • 塔では、17世紀の木材を再利用し、高さ25mの鐘楼を南塔に再建。1753年に聖職者によって破壊され、透明な窓に変えられた中世の多色彩飾の窓の復活。

荘厳 (創作)

  • 聖具室 (1831年の暴動で破壊) を、歴史的記念物委員会のガイドラインに従い、アンビュラトリ― (祭壇後部の歩廊) に設置された祭室のスタイルで復元。
  • 1787年に破壊された建物各所の突出部分を、構造上の理由により (ピナクル (小尖塔))、また、機能上の理由 (ガーゴイル (樋嘴)) や建築上の理由 (キメラ、キュロ、フック) により復元。これらのうち、「ストリージュ (訳注:半人半鳥で吸血する魔物)」の像は世界的に有名。

    *訳注:キメラ-装飾目的で設置される架空の怪物、キュロ-円柱の起共部、通常怪獣や植物の彫刻が施される、フック-拳葉飾り。ゴシック様式の柱頭の四隅などの装飾に用いられる

  • 石製 (祭壇、台座)、金属製 (建物内装に用いられた格子) 及び木製 (告解室、ベンチ) の典礼用家具の修復。18世紀に漆喰で覆われていたゴシック様式の多色彩の壁面装飾の修復。これはヴィオレ=ル=デュックによって修復され、20世紀になって一部が取り除かれていた。

中世の尖塔
尖塔は1250年頃に建てられ、特に16世紀に修復されたが、1793年頃、南東に強く傾斜していたために取り壊された。記録はあまり残っていないが、1843年の修復案コンペの時から再建が計画されていた。

屋根裏に保存されていた尖塔の残片を発見したヴィオレ=ル=デュックは、それを分析し、尖塔の枠組みのレイアウトを再構成した (考古学的・歴史的アプローチ)。彼は同時に、構造上の弱点も発見した (構造的アプローチ)。これらの分析の結果、彼は修復プロジェクトとして、13世紀の大工たちの手法に基づき、アミアン大聖堂の例やパリ・ノートルダム大聖堂のスケールに調和させて、また高い方が大聖堂の象徴的な重要性を表現できるという芸術家たちの意見に従って、13メートル伸長した尖塔を建設することを提唱した。

ラシュスやヴィオレ=ル=デュックはやりすぎたのか。

  • 最悪の状態にあった建物の保存に必要であった作業の重要性については、論を待たない。
  • 今日では、現代的創造の観点からモニュメントに対して行う貢献は、充実策として受け入れられているが、ヴィオレ=ル=デュックも同じことをしたにすぎない。にもかかわらず、彼の仕事はなぜ批判されなければならないのだろうか?
  • とりわけヴィオレ=ル=デュックが、彼の死後およそ100年経過後に採択されたヴェニス憲章 (1964年) を読まなかったと批判することはできないし、ヴェニス憲章を発明しなかったことを非難することもできない。他方、我々は、彼の寛大さに感謝しなければなるまい。

身廊にあるグリザイユ技法を用いたステンドグラス © Benjamin Mouton

聖歌隊の上部にあるカラーステンドグラス © Benjamin Mouton

13世紀の尖塔、16世紀の絵画。カルナヴァレ美術館 © Benjamin Mouton

ヴィオレ=ル=デュックによる新しい尖塔 © Benjamin Mouton

幻想的な彫像。ヴィオレ=ル=デュックによるデッサン © Benjamin Mouton

北塔のキメラ © Benjamin Mouton

ストリージュ © Benjamin Mouton

歪んだ表情の彫刻 © Benjamin Mouton

歪んだ表情の彫刻 © Benjamin Mouton

歪んだ表情の彫刻 © Benjamin Mouton

尖塔の銅像 © Benjamin Mouton

多色技法による調度品 © Benjamin Mouton

多色技法による調度品 © Benjamin Mouton